福岡高等裁判所 昭和28年(う)480号 判決
しかし、記録を調べると、起訴状記載の訴因たる本件公訴事実の要旨は、被告人黑田源五、同木下寛祐はいずれも熊本財務部に勤務する公務員であつて、日米サルベージ株式会社々長の被告人中原榮蔵に対し、各担任する職務について、便宜な取扱をしてやつた謝礼として同人から、それぞれ現金二万円の供与をうけて、各職務に関して賄賂を収受し、又、被告人中原榮蔵は右のとおり、右被告人両名の職務に関して賄賂を供与したというのであつて、ただこれだけを見れば、被告人黑田源五、同木下寛祐と、被告人中原榮蔵とは、形式的には相対立する立場にあつて一見利害相反するかの如くにみえるけれども、原審公判廷においては、被告人三名とも、各金二万円を授受した事実を認めてその趣旨を否認し、被告人中原榮蔵はたんに年末に際し、それをお歳暮として渡し、又被告人黑田源五、同木下寛祐両名は、いずれも、これをお歳暮として貰つたものであると、全く同一の弁解をし、主任弁護人免出礦も亦、被告人中原榮蔵は、被告人黑田源五、同木下寛祐のいずれからも、その担任する職務に関して便宜な取扱をうけた事実なく又右被告人両名は、被告人中原榮蔵に対してそのような便宜な取扱をしてやつた事実は毛頭ないのであつて両者間に授受された金員は、時恰も年末ではあり儀礼的な土産物代りにされたにすぎないと主張して、各弁護人とも、実質上、各被告人に共通した利益の弁論をして同一の結果を期待し、しかもその弁護を相互に抵触することなく完全に遂行してその任務を全うしている事実を認めることができるし所論のようにその一方に有利なことは必然他方に不利となる関係にあるものとは毫も認められないので、原審における被告人黑田源五、同木下寛祐と被告人中原榮蔵とはその利害相反しないものといわねばならぬ。又若し仮りに、被告人等の間に利害相反する関係が存するにしても、もともと本件においては、被告人等各自が原審において弁護士免出礦、同江橋修を各別に、それぞれ共同の弁護人として任意に選任して、各自の訴訟行為を同弁護人等に委任したいわゆる私選弁護の場合であつて、同弁護人等は当然各被告人の利益のために、適法に充分な権利の防衛をなし得るのであるからこれがために、所論のように、原審の公判審理の全般に亘つて不法に弁護権が制限されたことにはならない。
(後略)